【読書】バッタを倒しにアフリカへ 著者:前野ウルド浩太郎さん
知り合いから冒頭から引き込まれる本があると紹介されて読み始めた。
冒頭:
100万人の群衆の中から、この本の著者を簡単に見つけ出す方法がある。まずは、空が真っ黒になるほどのバッタの大群を、人々に向けて飛ばしていただきたい。人々はさぞかし血相を変えて逃げ出すことだろう。その狂乱の中、逃げ惑う人々の反対方向へと一人駆けていく、やけに興奮している全身緑色の男が著者である。
確かにこれは興味深いし、最近東アフリカでバッタが大量に発生していることもあり読んでみることに。
私は大学の時に(一応)環境工学専攻であり、ポスドクの大変さも少しは認識している。この著者はアフリカのモーリタニアにてバッタの研究を行った。普段知ることが難しいモーリタニアでの生活をユーモアたっぷりに書いてくれている。何より所長のババさんとのやりとりや、白眉センターに採用された話はぐっとくる。夢を諦めず、行動をし続ける人からは勇気をもらえる。著者のご活躍を陰ながら応援します。
以下本文
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前書き
子供の頃からの夢、「バッタに食べられたい」を叶えるためなのだ
夢を持ち続け行動しているということは素晴らしいこと
大人は、飯を食うために社会で金を稼がなければならない。バッタを観察して誰がお金を恵んでくれようか。あのファーブルでさえ教師をしてお金を稼いでいた
本書は、人類を救うため、そして、自信の夢をかなえるために、若い博士が単身サハラ砂漠に乗り込み、バッタと大人の事情を相手に繰り広げた死闘の日々を綴った一冊
確かにヤギを土産に現地の人と近づく知恵や工夫を感じた
第1章 サハラに青春を賭ける
その昔、殺虫材を使い切ると殻のドラム缶は砂漠にポイ捨てされていた。そのドラム缶を現地の遊牧民が家の材料や水を貯めるタンクとして使用し、健康被害が出ていたという。そこで、ドラム缶にはシリアルナンバーがつけられ、出荷から回収まできちんと管理するようになった。
殺虫剤以外での対策の研究結果が見つかりますように。殺虫剤や農薬などは回りまわっていろんなところに影響がでるはず。
なるべく新しい殺虫剤を維持できるよう、近隣諸国で殺虫剤の貸し借りを行い、古いものから使用して調整している
何事も国を目的を共有し、国を超えた協力は必要。
バッタには地を這う幼虫、空飛ぶ成虫、地下で身動きの取れない卵の三つのモードがある
彼らは自身が生活している背景の色に体色を似せることができる
幼虫はトゲが生えた植物にしか潜んでいない
過去1世紀にわたるバッタに関する論文を読み漁ってきたが、バッタがトゲ好きだなんて聞いたことがない
実地調査のつよみ。
①どの種類の植物にバッタがいたか、②バッタがいた植物といない植物の大きさ、の二つのデータが必要だ。
仮説を証明するためのデータ。
群生相の幼虫が、一斉に同じ方向に向かって行進しているではないか、群生相に特徴的な「マーチング」と呼ばれる行動だ。生で見られた感動のあまり、泣きそうになった。
そのうち、団子を作るための放り投げ回数が人によって違うことに気づいた。若い人は19回、中年2人は16回と12回、おじさんは8回、歳をとるほど無駄な動きが省かれ、握る回数は減少傾向にある。これは熟練の寿司職人ほどシャリを握る回数が減っていくのに似ている。
ごはんを食べるシーン。よく観察してると感心しました。
食後には「タジマ」と呼ばれる茶色く濁ったジュースが出された
ググってもなんかうまく検索できなかった。。。
こだわりポイントとしては、実験室でもできるような研究ではなく、現場でしかできない、地の利を活かした研究を心がけること
今の場所・タイミングでしかできないことを意識
このエリアには主に3種類の植物が生えているが、孤独相は3種類中一種類の植物にだけ潜んでいた。ところが、群生相はこだわりなくどの植物にも群がっている
幼虫が群がっている植物に向かって歩いていくと、彼らは飛び跳ねて外へ逃げるか、その植物の中に逃げ込むか、どちらかなのだ。傾向として、群がっている植物が小さいと逃げ出し、大きいと植物の中に逃げ込む。後者の場合、植物を防御シェルターとして利用しているようだ。
実地調査じゃないとできないことだな。
「群生相の幼虫は、群がっている植物の大きさに応じて逃げ方を変える」
仮説
必要なデータは三つ。まずは、①植物上の群れの個体数。仲間が多ければ強気になって逃げなくなるかもしれないので、あらかじめバッタが大体何匹いるかチェックしておく。次は、②逃げ方。植物から逃げるか、留まるか。そして、③シェルターの質を判断機銃として、群れがとどまっている植物の種類と大きさ。これらのデータを収集できればバッタの逃げ方のパターンを解明できる。
興味深いことに、夜になるとバッタは逃げるのをサボり始めた。皆、その場に留まっている。これまた新発見だ
調査は忍耐と体力勝負。大学時代に先輩の研究の補助をしたがその時は夜通し3時間置きにボートを漕いでプランクトンの採集にいってたな。懐かしい。
この木(Maerua crassifolia)の成分には抗菌物質が含まれ、実際に虫歯予防になっている
木の枝で歯磨きをするシーン
何も取り柄がない自分だったが、フィールドワークを苦に思わないのが取り柄になるかも。
行動力、夢を追いかける姿勢、忍耐力、周りを味方にする力、読者からしたら取り柄はたくさん感じました。
第2章 アフリカに染まる
その胸の内を父に告げると、「学校になんか行くもんじゃねぇ。えらくなったら束縛されて社会のどれにになるだけだ。」
ババ所長が小さいころ、学校に行きたいと父親に言った時のこと
父の言った通り、私には自由な時間がなくなり、社会の奴隷になってしまった。しかし、私がバッタと戦わなければ誰が闘うというのだ?私は神に誓ったように人の役に立ちたいのだ。
ババ所長も小さなころの思いを秘めて行動してる熱いひと。
タイトルを見ただけで私はうんざりしてしまう。バッタの筋肉を動かす神経がどうのこうのとか、そんな研究を続けてバッタ問題を解決できるわけがない
ババ所長が毎月送られてくるバッタの研究タイトルを見てのコメント。現場を大切にする想いがある
もちろんそれは過酷な道ですが、フィールドワークこそが重要だと信じています。誰か一人くらい人生を捧げて本気で研究しなければ、バッタ問題はいつまで経っても解決されないと思います。私はその一人になるつもりです。
著者のことば。
第3章 旅立ちを前に
いつしか昆虫学者になるのが夢となり、その熱い思いを小学校の卒業文集に刻み込み、ファーブルの魅力は子供心をつかんで離さず、虜にされたまま大人になった。
高校3年生の夏休みに弘前大学のオープンキャンパスに参加し、初めてのリアル昆虫学者、のちの指導教官となる安藤喜一教授に出会った。虫のことなら何でも知っているし、何よりも嬉しそうに虫について話す姿に、とてつもない憧れを抱いた。
流難の博士たちが目を光らせて欠かさずチェックするのが、研究職に関する求人求職情報サイト「JREC-IN」だ。
地球上の陸地面積の20%がこのバッタの被害に遭い、年間の被害総額は西アフリカだけで400億円以上にも及び、アフリカの貧困に拍車をかける一因となっている。
なぜサバクトビバッタは大発生できるのか?それはこのバッタが、込み合うと変身する特殊能力を秘めているからに他ならない。
まばらに生息している低密度下で発育した個体は孤独相と呼ばれ、一般的な緑色をしたおとなしいバッタになり、お互いを避け合う。一方、周りにたくさんの仲間がいる高密度下で発育したものは、群れを成して活発に動き回り、幼虫は黄色や黒の目立つバッタになる。これらは、群生相と呼ばれ、黒い悪魔として恐れられている。成虫になると、群生相は体に対して翅が長くなり、飛翔に適した形態になる
https://wired.jp/2020/05/11/africas-huge-locust-swarms-are-growing-at-the-worst-time/
これだと、群生相の色は食べ物が影響してるとか書いてあるけど、そういう意見もあるのかな?
大発生時には、全ての個体が群生相になって害虫化する。そのため群生相になることを阻止できれば、大発生そのものを未然に防ぐことができると考えられた。
バッタとイナゴは相変異を示すか示さないかで区別されている。
しらなかった
進むべき道は二つ。誰かに雇われてこのまま実験室で確実に業績を積み上げていくか、それとも未知数のアフリカに渡るか。安定を取るか、本物を取るか。
たぶん、人生には勝負を賭けなければならないときがあり、今がそのときに違いない。自分ならどうにかなるだろうという不確かな自信を胸に、アフリカンドリームに夢を賭けることを決めた。
第4章 裏切りの大干ばつ
バ「問題!電線に小鳥が5羽止まっています。銃には弾が3発。さぁ、何羽仕留められますか?」
前「もちろん3羽!」
バ「ノン!正解は1羽です。他の鳥は一発目の銃声を聞いたら逃げるだろ?いいかコータロー、覚えておけ、これが自然だ。自然は単なる数字じゃ説明できないのだよ。自分で体験しなけれれば、自然を理解することは到底不可能だ。自然を知ることは研究者にとって強みになるから、これからも野外調査を頑張ってくれ。ガッハッハ」
前「あぁぁ、所長ぉぉ」
簡単な例えだけど真理を表してる。
我々モーリタニアの文化は、そこに困っている者がいたら手を差し伸べ、見殺しにすることはない。持っている人が持っていない人に与えるのは当たり前のことだ
難民を受け入れる国の姿勢について
第5章 聖地でのあがき
それにしても、目標とは生きていく上でなんと重要なのだろう。あるとなしとでは毎日の充実感が大違いだ。
逆にモーリタニアでは、ふくよかなほうがモテる。そのため、少女時代から強制的に太らせる伝統的な風習がある。これは「ガバージュ」と呼ばれるもの
女の子を太らせるための塾もあるそうだ。ウシやラクダがよく乳を出す雨期になると、女の子を南の地域にある塾に預け、肥満合宿によって徹底的に太らせる
これは怖い。。。
同じ人間でも、文化や時代の影響で「異性に対する好み」が極端に違っている
第7章 彷徨える博士
文字を書くのにパソコンを使う人と地面の砂に書く人、ナイキやアディダスなどの靴の選択肢を持ってる人とペットボトルを潰し、それを靴代わりにするしか選択肢のない人
「あなたが不満を持っているのなら、周りを見回してあなたが置かれている環境に感謝すべきだ。幸運にも私たちは必要以上に物を持っている。再際限なく続く欲望に終止符を」
ババ所長がスライドを見せてくれた時の内容。足るを知る。
いいかコータロー。つらいときは自分よりも恵まれている人を見るな。みじめな思いをするだけだ。つらいときこそ自分より恵まれていない人を見て、自分がいかに恵まれているかに感謝するんだ。嫉妬は人を狂わす。お前は無収入になっても何も心配する必要はない。研究所は引き続きサポートするし、私は必ずお前が成功すると確信している。ただちょっと時間がかかっているだけだ
所長はまじで人格者。尊敬します。他人との比較で幸不幸を感じると、幸せにはなれない。考え方を変える必要がある。
さすがはババ所長。思い詰めていた人間をここまでポジティブに変えるとは、なんという励まし上手、相談してよかったと感謝の気持ちを伝えた。
苦しいときは弱みが滲み、嘆きが漏れ、取り繕っている化けの皮がはがされ本音が丸裸になる。
ぶつかる困難が大きければ大きいほど、甘えは削り取られ、内なる光が輝きを放つはず
最適な適応戦略をとるバッタの相変異、私が研究者として生き延びるためには、私自身も相変異を発言し、たくさんの「人相」を持つことが活路を切り開くカギになりそうだ。
すごい上手い表現
人も同じで、甘い話や物に寄ってくる。みんな甘いものが好き。
「人の不幸は蜜の味」で、私の不幸の甘さに人々は惹かれていたのではにか。
この発想に至ってからというもの、不幸が訪れるたびに話のネタができて「オイシイ」と思うようになってきた
事実は変えられないが、捉え方や意味付けは変えられる。
思えばこの一年で、私はずいぶん変わった。無収入を通じ、貧しさの痛みを知った。つらいときに手を差し伸べてくれる人の優しさを知った。そして、本気でバッタを研究に人生を捧げようとする自分の本音を知った。
第8章 「神の罰」に挑む
なぜ干ばつの後の大雨がバッタの大発生を引き起こすのか。科学的に立証されているわけではないが、個人的な意見を述べる。
干ばつによってバッタもろとも天敵も死滅し、砂漠は沈黙の大地と化す。バッタはアフリカ全土に散らばり、わずかに緑が残っているエリアではほそぼそと生き延びる。
翌年、大雨が降ると緑が芽生えるが、そこにいち早く辿りつける生物こそ、長距離移動ができるサバクトビバッタだ。
第9章 我、サハラに死せず
私が人生の諸先輩たちに施してもらったことを、命果てる前に次世代に繋ぐことができて本当に良かった。人前で話をできることが楽しかった。皆が楽しそうにしているのを見るのは快感だった。
母校にての講演をした際のこと。
学んだこと、経験したことを還元することは素晴らしい。